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記事タイトル : | 株式会社アルバックス ☆文化事業・人材派遣☆ 人材・旅行・文化で 日中を結ぶ |
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掲載媒体 : | 中国ビジネス最前線の記事 |
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活躍の場を求めて来日、文化事業の夢を叶える
中国の雲南省など各地の少数民族が守り伝えてきた伝統文化である「民族歌舞」を採取し、世界で活躍する中国のトップダンサー、ヤン・リーピンが壮大な舞台として構築した「ヤン・リーピンのシャングリラ」。二〇〇八年三月に文化村オーチャードホールで全一一公演が行われたこの公演は、株式会社アルバックス(以下、アルバックス)が文化村、TBSと共催したものだ。
「中国芸能の日本公演は招待客だけで客席を埋めた一日だけの公演が多いのですが、全一一公演を商業的に成功させることができました。終了後、集まったアンケートを見ると、すごい、感動した、中国のすごさを感じたという言葉ばかり。二万人の観客は確実に中国への印象を変えたことでしょう。政治的な取り組みより、人の心に直接響くのは文化です。これしかないと手応えを感じました」と代表取締役の呂娟氏は熱く語る。
アルバックスでは二〇〇六年に日中合作映画「鶴よ翔べ」を自主制作したのを皮切りに、日中文化交流に取り組んでいる。書画の展覧会などはもちろん、二〇〇八年一二月には中国政府文化部からの要請を受けて「現代中国芸術週2008」の開催も手がけた。一連の文化事業は、日本でビジネスを始めた頃から呂氏が最も成功を目指していた分野だ。
呂氏は八〇年代終わりに来日する前、中国では医師として活躍していた。公務員である医師という専門職を捨てて日本に留学した理由は、強い上昇志向だった。
「家族の勧めで医師になったものの、病院上層部に自分が入るには長い年月がかかります。私は若いうちに成功したかったので、海外に出るしかないと考えました」と呂氏。留学先には、申請した中で最も速くビザを発行した日本を選んだ。呂氏が日本語を学んだ後、大学で専攻したのは日本文化だった。
孫子に「知己知彼百戦百勝(彼を知り己を知らば百戦危うからず)という有名な兵法があります。ビジネスをするためには経済学や商学を学ぶより、相手にする国のことを知ることが重要だと感じたのです。日本の歴史や文化を学んだこの時の経験が、今でも役立っています」と呂氏は語る。
日本で成功したいと強く考えていた呂氏は、大学卒業時に一流企業の内定を辞退している。人に勧められて就職活動をしたものの、大企業に就職するの
では中国で病院勤務をしているのと変わらないと思ったからだ。しかし中国進出を睨んで呂氏の採用を決めた企業側からは、理由の説明を求められた。この時、すでに呂氏には卒業後に取り組むビジネスのビジョンがあったという。 「当時日本は人手不足で、中国人留学生でも簡単にアルバイトが見つかりました。一方で中国では改革開放政策が進められたこともあり大量の失業者が社会問題となっていました。人のいない日本と、仕事のない中国。互いの弱点を補うには日本企業への中国人派遣だと考えたのです。中国人留学生をサポートするアルバイトをする内に、業務に必要なさまざまな手続きも覚えました。面接のときに自分でビジネスを始めたいという想いとこの計画を話しました。その時、私の話に共感された人事部長が、起業時のパートナーです」
三月に定年退職を控えていた人事部長は、留学生の呂氏に共感して一緒に起業することを決意。同じ時期に退職する同期に声をかけた結果、日本で豊富な経験を持つ六〇代男性四人と二〇代の中国人女性という五人で起業することになった。
強い意志と熱心な教育、強力なサポートで中国人材を日本企業へ
人材派遣業をスタートさせるにあたって、呂氏は自らが営業担当トップとして全力疾走し始める。
「アポイントだけ取ってもらった後の営業担当は私です。相手先の玄関で、必ず依頼を取ってみせると強く自分に言い聞かせ、事業PRをとても熱心に行いました。自分への誓い通り、毎回顧客からの依頼書を持って笑顔でただいま! と帰社する日々でした。平日は営業、週末はお客さまを伴って中国で採用活動、と休みのない生活でした」と呂氏は当時を振り返る。
人材不足だった日本。一方、中国側にスキルや年齢などさまざまな条件を伝えて人材探しを依頼してから面接に行くと、一〇人の募集に一八〇人も応募があったという。それもすべて条件に満たす人材ばかりで、日本企業側からは嬉しい悲鳴が上がった。「採用後はまず三ヵ月の研修をします。日本語と共に日本の習慣や礼儀、考え方も教えます。朝五時から運動も含めて厳しいトレーニングです。それでも、当時日本の一ヵ月の給料が中国の年収にあたるほどでしたから、彼らも必死でした」と呂氏は語る。厳しい教育を受けた中国人労働者は、日本の生産現場などで活躍した。始業時間より早く出社して掃除をしたり、大きな声で挨拶をしたりする彼らに影響されて職場の雰囲気は引き締まり、必死に働く彼らのおかげで生産性も向上した。
人材派遣業におけるアルバックスの収益は、紹介手数料と管理料で確保されている。企業と従業員の間に立ち、折衝する。
「中国人側の態度に問題がある、と企業から連絡を受けることもあれば、中国人労働者側から助けを求められることもあります。すぐに駆けつけて対応することで、お客さまからの信頼を得ています。リピーターとなる企業もとても多いですよ」と呂氏。これまで一四年間の事業で一万人以上を紹介してきた実績がある。
日中の文化交流に注力、日本将棋の魅力を中国に紹介
人材探しや面接のために頻繁に中国と日本を行き来するうちに、旅行業務を自社で取り扱うようになった。人材派遣をするうちにコンサルティングを行うようになり、要望に応じるために貿易事業も手がけるようになる。いずれもビジネスを続ける中で知り合った各業務のプロフェッショナルを迎え、独立した事業部をつくっている。貿易業はさまざまな品目の中からリネン類に絞り込み、現在では品質が高く安価なリネンが国内一五〇〇のホテルで採用されているという。
「ここ数年はどの事業も安定しました。これらの収益で取り組んでいるのが文化事業です。芸術には投資が必要です。芸術が好き、文化の仕事がしたいと思うだけでは実現は難
しいでしょうが、私はその夢を叶えるために長い計画を立てて実行してきました。目標を定めて、それを達成するためには何が必要で、それを得るためにはどうすれば良いのか、と段階的に考えて目の前のことをしっかりこなして行けば夢はかないます。若い人たちも諦めず、夢を追って欲しいですね」と語る呂氏は、夢は実現できるものだと力強く繰り返す。
映画制作はもちろん、中国芸能や書画の紹介など、アルバックスは幅広く文化事業を精力的に行っている。中国のものを日本で紹介するだけでなく、日本のアーティストの中国公演などもサポートし、双方向の文化交流も実現した。さまざまな文化事業の中でも呂氏が特に深い思い入れを持っているのが将棋だ。中国にも将棋はあるが、呂氏は日本の将棋は特別だという。
「中国将棋の王は一番後ろの王宮から出ません。両側には女性を表すコマが配されています。戦うのは外にいる兵隊たちです。とられたコマは二度と盤上には乗れません。ところが日本の将棋は王自らが戦う〝侍精神〟があります。下級の兵隊も突き進めば強力なコマに出世できます。そして、捕らわれた兵士にも自軍に取り込んで再び活躍の場を与えられます。おそらく世界中探してもこういうゲームはないでしょう。とても人道的なルールで、日本の精神が現れていると思います」
この、将棋に現れている日本の精神を、呂氏は将棋というゲームとともに中国に紹介している。子供たちを集めて将棋を教え、日本との交流試合も頻繁に開催している。「ルールより先に考え方を教えます。頑張れば出世できる、負けてもやり直せるという将棋は将来に希望が感じられるものです。中国の子供たちは将棋が大好きですし、日本が大好きですよ。子供たちの行ってみたい国ナンバーワンは日本です。それに、将棋は先々を考えなければならないため論理的な思考が身に付くので、将棋をする子供は数学が得意です。日本でももっと子供がするべきだと思います」と呂氏は語る。
新たな夢の実現に向けてIT事業にも着手
夢を追い、実現してきた呂氏は今後の展望にも大きな夢を持っている。まず、現在手がけている文化事業の発展を直近の目標としている。
「好評だった『ヤン・リーピンのシャングリラ』は二〇一〇年三月に再演を行います。今回は公演数も増やし、大阪公演も行う予定です。より多くの方に見てもらいたいですね。そして、映画は二作目『夢の壁』を制作中ですが、ベルリン国際映画祭への出品を目指しています。また、中国人の若い女性七人による音楽ユニット『七仙女』を日本でデビューさせて彼女たちのファッションをブランド化したいと考えています。東京ガールズコレクションや紅白歌合戦にも出られたらいいですね」と呂氏が語るように、直近の予定だけでも盛りだくさんだ。さらに新規事業も立ち上がりつつある。新たに取り組むのはIT関連事業だ。高速無線通信「WiMAX」のサービサーとなるべく、開発が進められている。これは、大手企業で長年の経験を積んだ技術者の夢と、不況下で職を失った中国人技術者を呂氏が結びつけて実現された。
「外国人の派遣労働者は立場が弱く、技術力は高くても不況下で失職してしまいます。しかし彼らをそのまま中国に帰してしまうのはもったいない。技術を生かして新規サービス立ち上げに尽力してもらっています。私はアルバックスを上場させることで、社会に公開された会社にすることを目指しています。IT事業を核にして三年後に上場するのが目標です」(呂氏)
夢を諦めないことはもちろん、一つの夢を叶えただけでは満足せずに新しい夢を描き出す。呂氏の姿勢はアルバックスの成長につながるだけでなく、中国と日本の交流を促し、実現している。